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――…… 胸ぐらを掴み、そこから伝わる結の震えが忘れられない。 翌日、俺は気を紛らす為に昼間から飲み歩いた。 ある程度まで飲むと、イヤなことも忘れられた。 結のことも、楽観的に考えられた。 俺は悪くない。 アイツが勝手に俺のパーソナルスペースに土足で入ってきたんだ。 殴ったわけじゃない。 少しビビらせただけだ。 俺は悪くない。 2件、3件とはしご酒して、俺は酒の力で自分を正当化させた。 昼間から飲みはじめたはずなのに、気づいたら夜になっていた。 歩くのも儘ならないまま、何件目かの店に入る。 カウンターだけの飲み屋。 俺はそこでより強い酒を煽る。 「飲みすぎじゃない?」 女の声がして、隣を見ると、2席離れて女がこっちを見ていた。 間接照明だけで照らされた空間。 酔いもあって、あまりよく見えない。 「一人?」 女はグラスを持ってこちらにやって来た。 「やけ酒?」 「…そんなとこ」 俺はそう応えて、グラスに手をやる。 細くて華奢な手が、俺の手にそっと添えられる。 「私もイヤなことがあって…」 そう言われて、彼女を見た。 アリかナシかと言えば、アリの女だ。 「何?慰めて欲しいの?」 そう問い掛けると、彼女は俺の手に指を絡ませる。 遊びなれした女だ。 年恰好から見て、俺や結とそうかわりない。 本能の部分から言えば、今すぐにでもヤりたかった。 ただ、理性がまだ残っていた。 「せっかくだけど、今日は予定がある」 俺はそう言ってよろけながら立ち上がる。 彼女は俺を支えるような仕草で、胸を腕に押し当てた。 弾力と柔らかさを感じる。 「残念だ」 俺はマスターに料金を支払い、彼女の分を別にテーブルにお金を置く。 「ご馳走さま」 彼女が少し微笑んでそう言った。 俺はそのまま店を出た。
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