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―…… 自分の欲望のまま、何も考えずに結を抱いたのは初めてだった。 ただ、自分が満たされるまで思い通りにした。 彼女はそれを必死で受け止めて、逃げなかった。 気付くと結はぐったりと眠っていた。 それに気づいたのは、自分が疲れはてて少し眠った後だった。 何度、どれくらい、どんな風に… 思い出せないくらいだった。 シーツや服は散乱して、所々赤く染まっていた。 その赤を見て、結の手の傷を思い出す。 眠る彼女の手をそっとみる。 傷は血が乾いているところは赤黒くなっていたが、まだうっすら滲んでいる部分もあった。 俺は棚から救急箱を出して、傷の手当てをした。 だいぶ深そうだ。 縫った方がいいかもしれない。 痛いはずだが、結は目覚めなかった。 彼女の目尻には涙の痕が残っていた。 酔いもあってか、感情が高ぶった。 とんでもないことをした。 ひとつ間違えたら犯罪だ。 だけど、抑えられなかった。 自分が堕落して行っている。 肌で感じていた。 結の手に包帯を巻き終えると、彼女の細い腕に目がいく。 自分の手に目をやる。 結の血が所々についていた。 俺は後退りして彼女から離れる。 部屋の扉に身体が当たると、そのまま脱力して座り込んだ。 結はどんなことがあっても、俺から離れない。 そう思うと救われる。 それが狂ってることも頭では理解している。 こんな男捨てればいいのに。 そしたら、お前は自由なのに。 そう考える自分と狂ってる自分が交差する。 お前だけ自由になんかならないでくれ。 俺と堕ちてくれ。 そう叫ぶ自分がいる。 頭を抱えて、下を向く。 まだ完全に酒は抜けていない。 完全に抜ける前に飲みたかった。 だけど、身体もダルくて立ち上がるのも面倒だ。 俺はいつからそうなったんだろうか。
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