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アルコールがきれたら不安になる。 それならきらさなければいい。 俺は自分が自分に戻るのを恐れて、飲み続けた。 今は朝なのか、昼なのか、夜なのか… そんなの気にならないくらいに、家で飲み、酒がなくなったら外に飲みに行き、帰りに酒を買って帰る― それを繰り返した。 金は底をついているのに、競馬で少し増やしてまた飲む。 運なんてついてるわけもなく、大負けして、返す目処もないのにまた消費者金融で少し金を借りた。 そして、また飲む。 酔っていればどうでもよくなる。 忘れられる。 頭の片隅には、こんなこと続かないとわかっていた。 だけど、今だけ、もう少しだけと、流されて行く。 何件かはしごして、気づいたら前に行ったカウンターだけの飲み屋にまた来ていた。 照明も暗めで、一人で飲むにはいい。 どれくらい飲んでいたかわからないが、突然背中に手を当てられた。 「この前はご馳走さま」 そう耳元で囁かれて、その声の方を見ると、前にここで会った女だった。 有りか無しかで言えば有りの女。 結にはない雰囲気を持った女だ。 「隣、いい?」 彼女に聞かれて、俺は頷いた。 「何?また一人で飲んでるの?」 彼女の方は見ずにそう問い掛けた。 「貴方に会いたくて、2日に1回はここに通ってたのよ」 そう言われて彼女の方を向くと、こちらを見てニヤッと笑った。 誰にでも言ってると思う半面、今の俺にはそれさえもいじらしく可愛く思えた。 2日に1回…結は俺にそんなに会いには来ない。 「彼女に何かカクテル作ってやって」 俺はマスターに声を掛けた。 彼女は嬉しそうに俺を眺めた。 露出の強いファッション。 座ってるだけなのに太股は半分見えている。 胸元を強調するその姿に、そそられる。 結とは全く違う、ある意味女くさい彼女は、全身で俺を誘ってるようだった。 俺はそれに引きずり込まれようとしているのはわかっていたけれど、それでもいいと思った。 出てきたカクテルで彼女とグラスを交わした。
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