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どれくらい飲んだかわからないが、俺は彼女と店を出た。
「ご馳走さまぁ」
彼女は甘えて俺の腕に絡まる。
地下の店を上がると、地上は雨だった。
傘なんてない。
「傘持ってる?」
そう彼女に問い掛けると、彼女は鞄から小さな赤い折り畳み傘を出した。
受け取って開けてみたけど、二人で入るには小さすぎる。
「ダメだな」
彼女に渡そうと差し出すと、受け取らず抱きつくようにして俺を見上げた。
「大丈夫。こうしたら二人入れる」
可愛いと思った。
普段なら思わない。
だけど、俺は完全にやられていた。
「家までこの傘貸してあげる」
「うちに?」
「お茶くらい飲ませてくれる?」
女がここまで言うかと思ったが、俺はそれに乗ることにした。
イエスともノーとも答えずに、俺は赤い傘を持って彼女の肩を抱き、雨の中に出た。
家までは歩いて帰れる距離だ。
二人とも酔っていて、足が絡まる時もある。
それもまた可笑しかった。
酔っているせいか傘をさしているはずなのに二人ともびしょびしょで、そんなことも可笑しくてまた二人で笑う。
彼女に傘を渡すと、彼女は傘を下に下げて、雨を浴びるように上を向いてクルクルと舞って見せた。
何に悩んでいたのか忘れられる。
躓いた彼女が、転けた拍子に傘が潰れた。
それも二人で笑う。
傘をその辺りのゴミ捨て場に棄てて、俺は彼女と自宅に向かった。
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