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地味に傷付く。 でも仕方ない。 俺はハンドバックを拾い、もう一度差し出す。 「あの人……だれ……?」 絞り出すような震えた声で、結は俺に問い掛けた。 「私より…好きな人…?」 結は恐る恐るこちらを見る。 俺はジッと結を見て、首を横に振る。 「じゃぁ…どうして!?」 泣き声のような悲鳴のような辛い声で結は俺に問い掛ける。 結の目から大粒の涙が流れる。 傷つけた。 失敗した。 やってしまった。 ごめん。 出来心だ。 俺も弱っていて、誰でもいいから求めたんだ。 そう言いたくても、周りの二人の目が俺のプライドを保たせる。 答えずにハンドバックをもう一度差し出す。 だが、それを手に取ったのは結の後ろに居た男だった。 「二人ともしっかり休んで、頭を整理してから話した方がいい」 男が諭すように話す。 何なんだコイツは。 結の足元は、男物のスリッパだった。 なんで? 内野舞は俺を睨み付けるように横目で見ながら通りすぎ、結の部屋の鍵を開ける。 そして結の手を引っ張って部屋に入るように促す。 横をスレ違う結の手を取りたかったが、俺はそうせずに帰ることにした。 男とは目も合わせず、素通りして階段を下りた。 ―外は昨日の大雨が嘘のように晴れていた。 どうしたらいいのかわからず、ただ歩いた。 そしてどこかモヤッとした、あの男の存在が気になって仕方なかった。 まさか、昨夜はあの男の家に? 自分のしたことを棚に上げて、俺は勘ぐる。 結にかぎって、俺を裏切ることはない。 そう思いながらも、気持ちは収まらなかった。
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