2950人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
「一輝、本当に何もないから」
二人一緒にこんな時間まで何もなしにドライブなんて…
「信じられるか!!」
乱暴に結の腕を振り払った。
俺は怒りに任せて男の胸ぐらを掴み、車の車体に男の身体をぶつける。
この男だけは締め上げとくしかない。
俺のものに手を出した。
許せるわけがない。
「一輝止めてよ」
「お前がフラフラフラフラしてるからだろうが!!!」
男を庇おうとする結さえも憎くなり、殴ろうとした瞬間、腹部に衝撃を感じて俺は地面に倒れこんだ。
男が俺を蹴り飛ばしたんだ。
「彼女に隙なんてなかったよ。いつも毅然としていた。君を思っていたんだと思う」
男は静かな声で、でもハッキリとそう言った。
「下心だして近づいてた俺が言うんだから間違いない」
そう言って結にやさしく微笑んだ。
俺の苛立ちはマックスだった。
殺してやりたいくらい憎い。
「結婚指輪着けたおっさんが何ほざいてんだよ!!!」
お前なんかに渡してなるものかと、男の胸ぐらを掴もうとするも、さっきのボディブローが効いているのか見透かされて両手を抑えられた。
「そうだよ。普通だったら俺なんて入る隙なんてないんだよ。でも君がそうしたんだろ!?」
男は真っ直ぐ睨み付けて声を上げて俺に言った。
俺も男を睨み付ける。
どんなに力を出しても、男の掴む手から逃れられない。
こんなおっさんに負けてたまるかと満身の力をこめる。
「君が彼女から受け取ったお金は、彼女が必死で働いて貯めたお金だ」
そんことおっさんに言われなくても知ってる。
「悔しいことや辛いこと、理不尽なことにも耐えて」
何でそんなことコイツから聞かなきゃならないんだ。
「君が彼女にした暴力は、身体だけじゃない心にも大きな傷を負わせたんだよ」
そんなこと、知ってるよ。
「額の傷、手首のアザ、周りからどんな目で見られてると思う?」
俺は悪くない。
結が俺を裏切るからだ。
最初のコメントを投稿しよう!