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ーー……
留置場に入れられて、俺は朝を迎えた。
冷たい壁にもたれて、ボーッとすぐ先の前にある壁を眺めていた。
あんな柄の悪い男3人に大ケガを負わせたのに、あのおっさんの力には敵わなかった。
「何者だよ、あのおっさん…」
俺は1人呟くようにそう言った。
結を守るためか?
なら間違いなく、敵キャラは俺だ。
彼氏のくせに、俺は結のヒーローではない。
昨日最後見た結の姿を思い出す。
疲れきった顔をしていた。
結の笑顔を最近いつ見ただろうか。
思い出そうとしても、
彼女の涙や、
苦痛に苦しむ表情、
悲しい顔しか思い出せない。
俺は右手で額を触り、結の笑顔の記憶を探す。
いつから…
いつからだろう…
何を間違えた?
視界が歪む。
閉じた瞼の奥が熱くて、鼻がつんとする。
口から漏れそうな声を圧し殺した。
伝う涙が静かに頬を通る。
額に当てた右の手を口許におろして、声が漏れないように、息が漏れないように塞ぐ。
結の笑顔を思い出せない。
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