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「い、いくら借りたの!?10万?20万?50万?」
母親の予測とは大きく上回る額だ。
「桁が違う」
母親は驚いたように両手を口許に当てる。
暫くの沈黙。
俺はベッドサイドの棚の上にある煙草を取り、口にくわえる。
煙草に火をつけていると、母親はおもむろに鞄から財布を取り出し、玄関へ急ぐ。
「どこ行くの?」
靴を履いている母親に問い掛ける。
「銀行に行くの」
母親は俺の尻拭いをしようとしている。
「400万だぞ。母さんにそんな自由になる金あるの?」
俺が言うと、母は動作を止めた。
そして、ゆっくりとこちらを見る。
「結ちゃんから400万も?」
母親は履きかけた靴を脱いで、俺の側にまで駆け寄った。
「どうしてそんなことになってるの!?昔から言ってるでしょ!?人様からお金を借りたりしちゃいけないの!!」
涙を溜めて訴える。
「結ちゃんの気持ちも考えなさい!!」
母親は涙を溢して声を上げた。
「母さんに、結の気持ちがわかるの?」
「わかるわよ!どんな思いでー」
「結の気持ちなんて」
母親の言葉を遮る。
「わかるかよ」
「一輝!」
「わかるわけない」
「一輝?」
「わかろうなんてしてこなかったんだから…」
煙草が燻る。
俺はそれを持ったまま、ただそれを眺めていた。
俺は、いつからそうなったんだろうかー
いくら考えても思い出せなかった。
それくらい長い間、結を傷付けてきたんだ。
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