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「返済を理由に彼女を繋ぎ止めるのか?」
親父はこちらを見ずにそう問い掛けた。
「違う。結とはもう…ダメだと思う」
「なら、すぐそれで返済しなさい」
テーブルの封筒を眺めたまま、俺は手が出ない。
「お前は、甘える相手を間違えている。高城さんはお前の親でも女房でも家族でもない、ただの赤の他人だ」
親父は俺に背を向けたまま続けて話した。
「そんな赤の他人のお前に、そんな大金を貸すなんて、どんな思いだったろうな?」
“利子の高いところでしょ?”
“危ないところでしょ?”
“私なら利子なしで貸してあげれるから”
“大丈夫だよ”
借りたあの日を思い出す。
「お前のことを、大事に思っていてくれたんだろうな」
結の姿を思い出す。
その場に崩れるように座り込む。
「家族以上に、彼女はお前のことを見て想っていてくれたのだと思う。お前に今、その気持ちが少しでもあるなら、一刻も早く返しなさい」
溢れそうな感情を抑えて、手を伸ばして封筒を掴んだ。
「どうしてあげたら一番いいのか、自分で考えろ」
封筒を握り締めて、涙を堪えて頭を下げた。
「必ず返済します。お借りします」
親父の背中に頭を下げる。
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