2949人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
呼ばれて彼女を見る。
「一輝が転職繰り返すのは医者になる道以外を模索してたの?」
突拍子もない質問に、一瞬頭がフリーズした。
なんで結がそんなことを知っている?
まさかそんなことまでわかっていたなんて、驚いた。
でも、もう格好つけたって仕方がない。
「なんだバレてたか…」
降参とばかりに、ため息を吐いた。
「勇輝がさ、俺が高3の時にはじめて言ったんだよ。家は僕が継ぎたいって」
「勇輝君が?」
「そう。俺は義務感でずっと医者になんなきゃ、継がなきゃって思ってたんだけど…あいつは違ったわけ。親父のあとを継ぎたいって本気で思ってた」
勇輝は俺と違って、昔から気弱な静かな弟だった。
俺が悪目立ちするものだから、勇輝には色々嫌な思いもさせたと思う。
ワガママやりたい放題の俺に刃向かってくることも意見してくることもなかった。
「譲ったの?」
そんな弟が、はじめて俺に、自分の意見を言ってきた。
「譲ったって言うか…」
どう表現したらいいかわからないけど…
「その時は、じゃ別のことをって思ったんだよ。でもずっと医者になろうと思ってたから」
「目標を見失った?」
後になって、フラフラ生きてきた俺に何も残ってなかった。
「う~ん…自覚なかったけど俺もなりたかったみたい」
ずっと医者になると思って生きてきた自分に、何も残っていなかった。
義務感がいつしか自分の目標になっていたことにも気付いていなかった。
自分のバカさ加減に笑える。
最初のコメントを投稿しよう!