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話を元に戻さなければならない。
「フラフラしてるのは俺で、結にがっかりばかりさせた」
そう言うと、結は首を横に振る。
「結は何でも受け止めてくれるって甘えてた。俺は結の気持ちなんて汲もうともしてなかった」
彼女は膝の上で手をキュッとさせて、前を向いていた。
「自分の失敗を尻拭いしてくれたのに、勝手にイライラして、ぶつけて、虚しくなって、結を裏切った」
俺は結側の肘掛けに肘をついたまま、顎に触れる。
冷静に話そうと、気持ちを沈める。
「あのおっさんに結を見ろって言われるまで、結が傷ついてることなんて知ろうとしなかった」
結が下を向いて、涙が溢れているのがわかった。
これは、けじめだ。
ちゃんと言葉にして伝えなきゃならない。
「他人に言われるまで気付かなかったんだ…ごめんな」
結は涙を堪えながら首を横に振った。
泣き声が漏れないように彼女が両手で口を押さえて泣いている。
手を伸ばせば、届く距離。
抱き締めてやりたい。
でも、そんな資格は俺にはもうない。
通路分の距離が、もう触れ合えない二人の距離のように感じた。
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