晴れ

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マンションまでの帰り道。 昔みたいに他愛ない話をした。 結の笑顔がたくさん見れて、切なかった。 マンションの前に到着すると、俺は一呼吸置いて、ポケットから封筒を出す。 「これ」 結に封筒を差し出す。 「何?」 「400万…返す」 「大丈夫なの?」 「親から借りた。すぐ返して来いって」 俺は口元の傷を指差した。 結は、心配そうに俺を見た。 「地元に帰ることにする」 何も決めていなかったけれど、結から離れた方がいいと思って出た言葉だった。 「そっか…そう…」 少し動揺していたけれど、それもすぐに落ち着くはずだ。 俺のことなんて、早く忘れろ。 「…じゃぁな」 そう言って俺は結に背を向けて歩き出す。 「一輝!!」 呼び止められて、振り返る。 「お医者さんになりなよ!」 結は大きな声でそう言った。 俺はビックリしたのと、唐突な結の発言に笑えた。 「いくつだと思ってんだよ。俺ら今年で三十路」 そう言ってまた前を向いて歩く。 結はいつも、俺の側で俺を応援してくれていた。 自分がしでかした結果なのはわかっている。 だけど、どうしようもなく辛かった。 それでも、振り返ることなく前を見て歩いた。 どうしようもなく、寂しくて、 どうしようもなく、悔しかった。
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