晴れ

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ー…… 「こちらの部屋の中のもの、全てでございますか?」 スーツを着て、ビジネスバックからタブレットを出しながら、男はそう俺に問い掛けた。 「はい。段ボールに入っているもの以外は全部お願いします」 「こちらのパソコン機器もですか?」 「かまいません」 俺が答えると、男は何度か頷いてタブレットで電卓を叩きながら作業を始めた。 20代後半くらいだろうか… そう歳の変わらない相手が、俺の東京での生活で使用していたものを算出していく。 東京の家を引き払い、実家に帰ろうと決めた。 親に地元に戻ることを申し出ると、実家に帰って来ることをすすめられた。 もう三十路にもなろうとする男が、実家に戻るなんて格好悪いけれど、何もない俺には有難い申し出だった。 とりあえず、地元で仕事を見つけて、安定するまで置いてもらうことにした。 要らないものを処分しなければと思っていたら、大学の先輩から、家電はもちろん家具や本、衣類まで全て買い取りする業者があり、買い取り出来ないものは処分も手伝ってくれると言う情報を教えてくれた。 そこに依頼して、段ボール2箱分以外の全てのものの審査をして貰っていた。 部屋の片隅の壁にもたれて、俺は男の仕事を見守っていた。 「10年以上お使いの家電もありますね」 「…上京してから買い換えてないものもあるので」 「なるほど」 炊飯器やテレビ、掃除機は18の時に上京してからずっと使い続けているものだった。 数年前の住まいの引っ越しで、冷蔵庫や洗濯機は買い換えた記憶がある。 それでも数年は使用していたので、二束三文にしかならないと言われた。 それでも良かった。 処分するにも金のかかる時代だ。 全部やってくれるだけでも助かる。
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