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ー高校を出てから足掻いてきた街を、俺は出た。
人生ではじめて、敗北感のようなものを感じていた。
何をしても失敗なんてなくて、適当に生きてても流れが良かった自分の人生で、はじめて逆流を泳いだ場所だった。
不誠実に生きてきた代償がこれだ。
ー地元の駅に着くと、弟の勇輝がホームに居た。
俺を待っていたようだ。
「どうした?」
「母さん、町内の婦人会で迎えに行けないから俺が行けって。荷物多いだろうからって」
そう言った勇輝は俺が持ってたボストンバッグを持ってくれた。
「わざわざホームまで悪いな」
俺の言葉には反応せず、勇輝は黙々と歩く。
俺はその後ろを歩いた。
ホームから改札口を出た時だった。
勇輝が突然立ち止まり、俺も合わせて立ち止まる。
「何で止まるんだよ」
俺の問い掛けが終わる前に、勇輝はボストンバッグを放り出して数メートル先へ走り出した。
勇輝が駆け寄った先には、壁にもたれ掛かりうずくまる女性の姿。
「どうしました?大丈夫ですか?」
勇輝は女性に寄り添い、問い掛けていた。
若いがわりとサイズ感のある女性。
サイズは勇輝二人分以上ありそうだ。
苦しそうな女性は何も答えない。
「ちょっと手触りますね」
勇輝は彼女にそう言って脈をとる。
そこそこある人通り。
駆け寄ったのは勇輝だけだと思うと世知辛い世の中だなと思いながら俺も二人を眺めていた。
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