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結の話を聞いて、複雑ながら安堵したことがある。
既婚者だと思っていたおっさんが、実は死別していた。
泥沼不倫ではなかったようだ。
なら、話は理解できた。
俺は結の相談にのり、アドバイスをした。
俺の実体験を交えて。
付き合っていた頃言えなかったことを、今なら優しく言ってやれた。
結は、俺との話で前向きになれたのか、すぐにでもおっさんに会いにいきたくなったようだ。
「一輝、ありがとう!ごめん、行かなきゃ」
次のバス停で彼女は駅に引き返えそうと、急いでバスを降りていく。
彼女の姿を目で追い、とっさにバスの窓を開けて結の名前を呼び、呼び止めた。
「結」
彼女は、振り返りこちらを見たけれど、バスが動き出す。
今、伝えるんだと、自分を奮い起たせた。
「がんばれよ」
俺の言葉に彼女は、笑顔を見せて大きく頷いた。
「一輝もね!絶対合格するよ」
そう大きな声でエールを送ってくれた。
俺は頷く。
彼女は俺のその仕草を見て、駅の方へ振り返り、背を向けて走り出した。
バスとは逆の方向へ彼女は走り、バスは彼女とは逆の方向へスピードを上げて走る。
あっという間に結は見えなくなってしまった。
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