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「まずは形からということで、三村さんは見よう見まねで、素振りをしたり、サーッ!とか得点する時に叫ぶとかするじゃないですか」
「それは卓球少女しかやりません」
「たとえです。つまり、奥さんも同じ状況なんですよ」
「妻も卓球で世界を狙えるんですか?」
「狙えません。奥さんも病気を通して、はじめて人に甘えようとしてるわけです。おそらく、人の頼り方というのも不得手な方なんでしょう、あなたの奥さん。それが理由かはわかりませんが、甘え方を知らない人間が脳内でイメージした『甘え方』を必死であなたに行なっているんでしょう」
「そうなんですか。またつまらない冗談でも言うつもりですか」と三村は思ったことを口にした。
「さぁ、実際にそうなのかは私にもわかりません。ただ、もう少し奥さんを見てあげることが完治への一歩だと思いますよ。私の経験上」
別れ際、医師はにんまりと笑った。そして、ボソッとつぶやいた。
「旦那さんのあの感じ……もしかして、発症している?」
結局、三村はアドバイスをすんなりと受け入れられなかった。
あの遊園地の帰りから、彼は我慢に我慢を重ねて、妻の機嫌をとっていた。ただし、真梨子は夜の夫婦生活については遠慮した。
あまりにも幼い妻の対応に、そういう気など毛程も感じなかった。それ以外はおおむね、妻の言うことは聞いた。
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