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◇◇◇
困った。
中堅メーカーの営業マンである三村は目の前の状況に困惑していた。
仕事帰りの彼を一軒家の自宅玄関で待ち受けていたのは、妻だった。
花柄のパジャマ姿で三村を迎える真梨子(まりこ)。異常だった。
幼なじみだった三村と真梨子との関係は結婚3年が経過し、落ち着いていた。
恋愛結婚だったが、仕事が忙しくほとんど妻の相手ができていない。
彼女は寝間着のままだらしなく微笑み、ギュッと抱きしめてくる。
妻は言った。
「あっ、まーくんだあ。おかえり!ね、ぎゅってしよ、ぎゅっ」
妻のぬくもりを感じた。そういえば、ひさしく妻を抱いていない。
いつもなら、家人の帰りなんて待たない。
早く帰って顔を合わせても、ふあー、と嫌そうに厄介者を見るように伸びをし、テレビの電源を切る。
二階の寝室に向かう捨てぜりふはいつもこうだ。
「あ、もう帰ってきたの。……もう寝よ」
はあと三村は肩を落とす。
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