彼女の涙ー1

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小一時間ほどで調べものは終えたが、彼女からはまったく連絡がない。 これ以上引き伸ばすこともないなと、僕は身支度を整えながらメールを打った。 “仕事は終わりましたか?” まだ企画本部の部屋にいるのか、それとも既にトンズラしたか分からないが、いずれにしても悶々としているのは確実で、僕からのメールに飛び上がったことだろう。 返信は意外に早かった。 “終わりました” たった一言。 だから余計に彼女の重いため息が聞こえてくるようで、僕のSっ気がムズムズし始める。 時間稼ぎを諦めたところを見ると、彼女は会社にまだ居たらしい。 そして仕事は終わってしまったらしい。 わざと返信はせず、通用口まで降りる。 我ながらこんな時にイジメなくてもよかろうにと思うものの、たとえ相手が僕であっても、一人で膝を抱えているよりは生産的に過ごせるはずだ。 あくまでも僕サイドの理屈だが。
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