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コーヒーを手渡すと彼女はぎこちなくソファーに腰かけ、マグに隠れるようにしながら部屋を見回した。
化粧が取れた頬はそのままだったが、さきほど荒れていた唇は少し艶が加えられていた。
嫌いな僕が相手でも少しは身だしなみに気を配ってくれたらしい。
ならばご期待に応えて恐怖を味わってもらおうではないか。
彼女の正面の肘掛け椅子に腰を下ろし、視線を合わせる。
「今のうちに寝室も見ておきますか?恋人なら当然長く過ごす場所ですから」
意味ありげに笑いかけて立ち上がると、途端に彼女はソファーの背もたれに磔になってしまった。
さあ、経験値の低い子羊……いや子牛よ、社会勉強だ。
世間の平均レベルよりやや色気に欠けるせいか、子羊より子牛がしっくり来るのが可笑しい。
彼女はしばし目を丸く見開き僕を見上げていた。
恐らく頭の中はカオスだろう。
案の定うまい言い逃れを思い付かなかったらしく、僕が視線で出口に促すと、恐怖に頬をひきつらせながらフラフラとついてきた。
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