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「こちらです」
ドアを支えてやると、彼女は廊下に立ったまま腰を低く折り、可能な限り僕から距離を取りつつ上半身だけを伸ばして中を覗いた。
どう見てもきつい姿勢だが、何が何でも中に入らずに済ませたいらしい。
東条の寝室なら喜んで飛び込むだろうに。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。お仕置き部屋ではないので」
僕の顔の真下で彼女の頭頂部がヒクッと揺れた。
苦手な嫌味男のまな板の上。
いま手を伸ばせばどれだけ怖がるだろう?
そんな悪趣味な好奇心が頭をもたげるのだから、男は怖い。
「冗談です」
これは仕事がらみだ。
何よりこの迷子に関しては横道に逸れるとろくなことがない。
危険な好奇心に蓋をして、何食わぬ顔で彼女を部屋の中に入るよう促した。
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