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「すみません……!」
切迫した声とともに彼女が顔を上げた。
恐らく半泣きなのだろうと涙を見ることは予想していたし、そもそも出会いの初日の大半は泣き顔だったから見慣れている。
なのに、その顔を見た時、一瞬だけだが僕は視界が揺れるほど動揺した。
間近な距離で僕を見上げた顔は、まだ泣いておらず、泣くのを必死にこらえていた。
だけど僕とぶつかったはずみだろう、その目にいっぱい溜まっていた涙が大粒の玉になってポロリとこぼれる瞬間を僕は見てしまった。
これまで僕は女性の涙を皮肉な目で眺めることが多かった。
でもこの時、誰に見せるためでもない涙を目にして、初めて素直に受け止めた気がする。
もしかするとそういう理屈ではなかったかもしれないが、この時の僕には突き詰めている暇がなかった。
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