彼女の涙ー1

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*** 夕方、僕は取引先での仕事を終え、自宅へ戻る代わりに彼女の会社へと向かっていた。 “仕事が終わったらメールして下さい” 約束した時点では彼女にそう告げていたが、彼女の性格からして、逃げ道を探し悩んでいるだろう。 本来なら僕の部屋に来ることに尻込みしてあがく彼女を見て楽しむはずだったが、今日ばかりはこちらが動いてやらねばと思った。 その原因は昼間の出来事にあった。 秘書によれば、各本部のトップに宛てた調査書の返却が昨日締めだったが、企画本部からまだ届いていなかったため、人事本部長が確認の電話をしたらしい。 企画本部は副社長が本部長を兼任しているため、副本部長が事実上のトップだ。 すると江藤奈都が青ざめて飛んできた──というのだ。
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