彼女の涙ー1

8/21
前へ
/21ページ
次へ
『気の毒なほど謝っておられました。私が溜め込んでいたんです、副本部長からは先週預かっていたと』 人事秘書は気の毒そうな表情を浮かべた。 『文書はいつも彼女が?』 『はい。現在の副本部長になってからは特に……』 恐らく彼女は私のせいだと言えと、叱責を受けたのだろう。 先日の雑用の話といい、閉鎖的な小さな部門の中で起きていることが垣間みえている。 彼女の社に着き、五階に上がる。 現在、午後七時。 彼女からまだメールはない。 企画本部のドアの磨りガラスにはまだ人影が見えていた。 その中には彼女もいるはずだ。 約束を反故にしてしまえるほど世間擦れしていないし、昼間の出来事を無かったことにして振る舞えるほど器用でもない。 悶々と悩んでいるであろう彼女の捕獲タイミングを待つ間、雑用の片付けのついでに副本部長の前歴を調べるため、僕は人事部に戻った。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1736人が本棚に入れています
本棚に追加