彼女の涙ー1

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副本部長は営業などの下積みはなく、主に広報・宣伝畑などうまい汁を吸いながら企画本部のトップに就いた人物だった。 偏見に満ちた僕の頭の中では、弱者に威張り散らすことで己を大きく見せる、見栄張りで器の小さいオッサン像が描かれた。 前職では本人の要望で秘書職が置かれたらしい。 おそらく当人にとって秘書を持つことは出世のステイタスなのだろう。 それにしても、なぜそんな要望が通ったのか理解に苦しむが。 「新川副本部長は何か派閥に?」 「ああ……」 人事課長は周囲を確かめたあと、少しこちらに顔を近づけて声をひそめた。 「……相談役の縁戚らしいです」 「なるほど」 「新川副本部長が何か?」 「いえ」 世襲制の企業ではないものの、前社長が表向きには退きながら相談役となって院政をしき、人事にもかなりの影響があるという。 現社長も相談役の娘婿だ。 相談役の影響力下から副本部長を引きずり出し、能力に相応な人事対応をするのは、内部の人間には無理なのだ。
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