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コーヒーのマグを二つ持ってリビングに戻ると、彼女はソファーの背もたれに頭を預けて目を閉じていた。
「コーヒーをどうぞ」
試しに声をかけてみるが、目を閉じたまま微動だにしない。
近づいてみると口元が少し緩みかけている。
泣き疲れと昼間の疲れのせいだろう、彼女は眠ってしまっていた。
起こさねばと名前を呼ぼうとした時、僕は詰まった。
“江藤さん”
当然そう呼ぶはずが、僕には何となくそれがしっくり来なかった。
彼女にはそんな無味乾燥でビジネスライクな呼び方でなく……。
ふと浮かんだ呼び名は一笑に伏し、ソファーの隣に黙って腰掛ける。
彼女の分をテーブルに置くと、僕はコーヒーを飲みながら隣の寝顔を眺めた。
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