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「鰻は大丈夫ですか?」
夢中になって食べている様子からして大丈夫であることは間違いなかったが、形ばかり問いかけた。
そうでもしないと、食べ終わるまで僕の存在を忘れていそうだった。
「はい、大好きです。高いから鰻は久しぶりで」
彼女は顔を上げ、満面に笑みを浮かべて大きく頷くと、尋ねてもいない経済状況まで披露して再び食事に集中し始めた。
今日の昼、彼女が人事部に現れたのは休憩に少し入った時間だった。
あの後、おそらく食堂には行かなかっただろう。
空腹だったろうなと、彼女の涙を思い出していると、彼女は不意に僕の存在を思い出したらしく、感想を述べた。
「あの、美味しいです。ひつまぶし大好き」
言葉を発する前に彼女の“ゴックン”が大きく響いたが、昼間の涙とは対照的なその無邪気さが可笑しくもあり、どうしてだか胸のどこかが痛くもあった。
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