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「ワシらみたいなヘベレケによう話すやろ、君みたいな子は生真面目なA型かと思ったのや」
かな子は、「生真面目なんて、そんな、ありがとうございます」とやはり愛想たっぷりに言った後、二人の席を発っていった。
一方、掛布は、そんなことか、と内心思いながら運ばれてきたビールを口に付けると、ジョッキ越しにジョーの顔が映った。
「あの娘。キャバクラじゃあるまいし、あんな気さくに振る舞うなんてサービス良過ぎるやんな。うん、よく出来過ぎている。あれはつまり、接客して客に喜んでもらっとるというより、接客してる自分の姿に酔うとるんや」
「他人によく映りたい、ということですかね」
二人は顔を近付け声調を落した。
「まあ、そんな所や。ほんで思ったんや、B型だったら、そもそもあそこまで相手を盛り立てる話し方が出来んから、まずB型やないなと思った。O型は異性、特にワシらみたいな年配に対してあそこまで態度よくせんやろ。O型は比較的浅く広く人間関係を持つもんやが、一人一人に対してはそこまで深く入り込まん。だからO型もないと思った」
掛布は、城山推理を、固唾を飲んで聞き入った。
「ABとAの区別は難しい。そもそもABはサンプルが少ないから、判断材料がない。正直、Aは山張った、でもAが混じっている確信はあった。根拠は年齢や。あれが十八やなくて、二十代半ばくらいやったら分かんなかった」
「どういうことです」
解せない、といった様子で掛布は答えを煽った。
「考えてみい、自分が十八位の頃、こんな爺客ばかりの薄汚い居酒屋でバイトしようなんて思わんかったやろ」
「ええ、酒も飲めない年齢の頃、居酒屋で働こうなんて発想は湧きませんね…」
「せやろ。ほんで、今、何月や」
「何月?」
掛布はワイシャツの袖を捲り上げると、水滴のついたビールジョッキを見つめた。
蒸し暑い梅雨時、店内は冷房が効いているが、アルコールのせいで顔が火照り、とても居心地が良いとは言えない。
掛布は茶色く煤けたカレンダーを見つめると、焦らされるのを嫌うように言った。
「なんでそんなこと聞くんです。六月ですよ、今は六月」
「ほう、六月や。じゃあ次、あの子のバッジ見てみい。社員やろ、アルバイトやない」
「ああ、たしかに!」
かな子の胸元には、名前の記された薄青色の社員証が光っていた。
他のアルバイト店員は、社員証がない。
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