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ジョーはこの短い時間の中で、女性店員のかなり細かい部分までを観察していたようだ。 ジョーはさらに続けた。 「十八歳ってことは、高校卒業して、就職して、未だ二ヵ月ぽっちしか経っとらんのに、あの対応や。否、もしかしたら高校すら行ってないかも知れん。なのにあれだけのコミュニケーション力を兼ね備えている。はっきり言って大人顔負けや。少なくともこの二カ月間の研修で身についたものではない、あれは持ち前のコミュニケーション力やろう」 「そう言われてみると、確かに他のお客さんにも丁寧にお酌して、笑顔で対応してる。大したもんだ」 かな子は隣席の酔っ払い客に対しても嫌顔ひとつせず笑顔で注文を取っていた。 「年は幾つ?」、「彼氏はいるの?」、「どこに住んでいるの?」…云々、私的な領域にズカズカと踏み入る無礼客を笑顔で許容する応対力。その様子は実に頼もしくも見えた。 一方で掛布は、かなり酒に酔っていながらも、ジョーの推察力に甚だ驚きを隠せないでいた。 やはり百戦錬磨の人事部のジョー、大卒の役付きが多い安徳工機において、現場叩き上げで部長にまで上り詰めた男である、只者ではない。 「でも奇妙やろ、今どきの若いもんが、普通、あんな風に対応できるか?」 ジョーは、口髭についた白い泡を手で拭うと、難しい顔付きでジョッキを一点に眺めながら、神妙に語った。 「あれは無理して笑顔作ってるようにしか思えへん。ここからはワシの単なる推測じゃが、過去に何か嫌な出来事があって、まるでそれを掻き消すように偽りの笑顔を作っているのではないか。だから、いちいちオーバーなリアクションなんやないか。じゃなきゃ、ほんまに単なる阿保や」 「ちょっとそれは考え過ぎじゃないですかね」 掛布は、疑るような目つきでジョーの方を見た。 「きっと幼少の頃に家族を失ったとか、家庭が破産して働かざるを得ない理由があるとか、もしかしたら子持ちかも知れんぞ」 「まさか…」 「いやぁ、あり得るで。そう思うと、可愛そうになってくるやろう」 内容とは裏腹に、ジョーは昂奮気味に言った。 掛布は改めて店員の方を見ると、その表情には僅かに陰りがあるようにも見えた。 しかしそれが先入観によるものなのか、それとも本当に過去に陰翳を抱えているのか…、この時点では推測の域を出ない。 「手首見たか、もしかしたら傷痕あるかもな」 「ちょっと! 冗談が過ぎますよ」
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