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饒舌に語るジョーを制するように掛布が云うと、それを受け、ジョーは溜息混じりに話題を変えた。 「残念ながらうちの人事はクズだ。上場企業の中には、人事部に一番の出世頭を置く会社もあるが、うちは逆だ。設計や営業といった花形部署でやっていけなくなった間抜けが、最後の行き着く先として人事を選ぶ。今の安徳工機の人事には馬鹿ばっかり揃っている。覇気がなく、攻めの姿勢がない。本来、大会社では人事が一番しっかりしていないといけないんだが、機械メーカーってのは、皮肉にも、製品自体が黙っていても売れ続けるから、人事が仕事をしなくても会社は潰れることはない。そう思って会社におんぶにだっこの社員が、まあ多いこと―」 野球中継を終え、古びたブラウン管のテレビからは週末の天気予報が報じられている。 梅雨時らしく列島には前線がまとわりついており、この週末も関東地方は雨の予報である ジョーは、テレビの内容に気を取られることなく、十時を過ぎて尚、女性店員にちょっかいを出し続ける隣客を一瞥しながら、テーブルに両肘を乗せ顔を突き出し、なにやら隠し事を打ち明けるように声を潜めて言った。 「話が変わるが、会社が斡旋してる低金利住宅ローンってあるやろ」 「ええ、よくエントランス前で配布している―」 「あれはな、会社がある種の担保となってローンを斡旋させる代わりに、従業員に安い金利でローンを組ませることができるんや、また銀行にとっては、大企業の社員ってのは大口客となるため、ウィンウィンのやり方なんやが、実は会社側にも大きなメリットがあるんや」 突如、声のトーンを落としたジョーを見て、何事かと掛布も同様に声を潜めると、片方の眉を斜めにひしゃげながら問うた。 「ほう、会社側へのメリットとは、つまり、どういったメリットなんでしょう」 「つまりな、従業員の資産情報が人事に筒抜けなんや」 「なるほど…、で、それが何故、会社のメリットに?」 掛布は、その理由が解せない、といった様子で首を傾けた。 「お前は本当に理解が悪い奴やのう。誰が、どの位の借金を背負っているか、従業員の資産情報を掴んどくのは人事にとって重要な仕事やで」 安徳工機では、昼休みになると食堂棟やエントランス前に保険レディ、不動産営業や銀行員が立ち並び、社員に営業活動をかけるのが日常的な光景となっていた。 ジョーはそんな営業マンを引き合いに出し、次のように説明したのである。
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