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印法人のあるハルディアという町は、都市部から離れ娯楽もなく、またインフラの整備も遅れていることなどから、世界展開する同社の事業所の中でも、特に人気がない出向先のひとつであり、インド出向者の多くが何かしらの精神疾患を抱えて帰国するという曰く付きで知られていた。 インドに飛ばされるとすれば、よほど本体で問題事を起こした曲者であると推察されるが、掛布はそれ以上、踏み込んだ質問をする気にはなれなかった。 「今、ハルディア工場で人手が足りていなくてな、現地の生産部長が猫の手も借りたいと言っているのだ、インドは今後、うちにとって生産の核となる重要な拠点なのだ」 安徳工機では、円高の煽りを受け、日本から経営資源を海外に移管しており、今後、現地化がより進む方針である。 特にインドは現地に優秀なエンジニアも多く、生産拠点として注目を浴びていた。 「次の人事面談はワシにとって大一番になる」 ジョーはそう言って席を立つと、二人分の会計を済まし、颯爽と夜闇に姿を消した。
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