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多少、乱暴なやり方でも、改革を押し通さなければ、日本に未来はない。日本企業特有の摺り合わせ精神を続けていては、グローバル競争に遅れることを、ジョー自身がよく理解していたのだ。 「人事の基本は、人をどう使うかだ。株式会社ってのは、従業員を駒としか考えん。会社には把握できんくらい多くの種類の仕事が存在するが、すべての仕事をマニュアル化し、誰でも出来る状態にする。職人気質は許さない。個人の能力に依存しない仕組みを作る。従業員は機械の一部、誰がやっても結果は同じ、これが理想や」 当時、老舗メーカーの安徳工機では従業員の高齢化が課題となっていた。慌てて新卒採用を進めたものの、中堅世代の空洞化が起こり、技術の伝承もうまくいかず、世代間のコミュニケーションが難航していたのである。 属人化が進んだ仕事をいかに若手に分配するか、社内的に急務となっていた。 一方、製造現場から地理的に離れた横浜本社では、理屈で物を動かそうとする社員が多い。 製造業でありながら現場を知らない社員が、机上の空論で会社の方針を決めている。 違う、事件は現場で起きているのだ。 それゆえにジョーは、三年でローテーション、つまり人員が偏らないように、全社員を定期的に工場に配置するよう提唱したのである。 その対象は年齢、性別に限らず、全社員に及ぶ。 当然、本社で温室栽培された社員からは非難轟々の声が上がった。 「だいたいなんだ、この低落した本社の有様は。若い社員が昼間っからカフェで談笑だの、古株が窓際で競馬だの、挙句の果てに課長は海外出張で阿保んだらの部下共を野放し状態かい」 安徳工機は岐阜発祥の総合機械メーカーであり、本店工場をはじめ主要な事業所はすべて岐阜県内に集約されている。 横浜にある本社は、あくまで首都圏に管理部門を配置するという目的であって、実際にここでモノが造られているわけではない。 しかし土地柄、従業員の多くは岐阜の田舎よりも横浜で勤務することを希望し、一度、横浜本社で働いた者は、二度とこの場から動きたくないと、断固、異動を拒否するのだ。 本社勤務の人事部が全裁量権を得、自分たちに都合の良い待遇を用意し、実際にモノづくりを行っている岐阜県内の事業所には臭い仕事しか与えない。現場叩き上げのジョーにとって、これ以上に屈辱的な配置はなかった。 「現場を知らんでよく仕事など語れるわ」
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