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ジョーは早速、全管理職を会議室に集めると、夜通し改革案を出し続けたのである。 「今後、この会社の人事裁量権はワシが一手に受ける。ワシの逆らうものは言語道断、即左遷する」 ジョーは、廃止された工場実習の復活、三年ローテーションを基軸とした配置転換、また形骸化した採用活動の改革など、次々と政策を打ち出し、すぐに実行するよう命じた。 あまりにも急な展開に、顔を皺ばむ管理職も少なくなかったが、「上司に楯突く部下は鉄拳制裁、意思決定は上意下達が原則」と謳うジョーに、反論できる者はいない。 「現場実習を実施させるとともに、全社員を対象に工場への配転を命ずる。僅か三年の実習も耐えれん輩が、今後の会社員生活を無事に過ごせるとは思えん。だいいちここは製造業や、モノづくりの現場を知らんで仕事などできるか、工場で働くんが嫌なら最初からメーカーに入るな。銀行か商社にでも行け!」 ジョーは怒号を鳴らすと、工場への配転対象をリスト化させ始めた。 また「グローバル化、ダイバーシティ、ワークライフバランス」などと嘯いて実態の伴わない採用活動は、後で化けの皮が剥がれるとして廃止した。 このように、ジョーは本社人事に大鉈を振るったため、社内での評判は地に落ちたが、一方で本質を知る現場社員からは支持され、徐々にではあるが、社内での統率力も高まっていくように見られた。 ―試合は結局、そのまま阪神が勝利した。 甲子園では六甲おろしが鳴り響き、土壇場で誰もいないセンターフィールドに打球を飛ばした西岡がヒーローインタビューのお立ち台に上がると、皮肉を込めて発言した。 「打ち損じかと思いましたが、良い所に打球が飛んでくれて良かったですよ、なんせ外野が二人しかいませんでしたからね、がっはっは!」 西岡が云うと、原監督は罰が悪そうに頭を掻きながらベンチ裏に姿を消した。 時刻は夜十時を過ぎている。 金曜夜、アルコールが回ったジョーの舌にも拍車がかかる。 「かの有名なゼートクは言った。軍隊では、馬鹿で真面目な奴が一番使えない、これは会社組織でも通じる」 ジョーの経営談義は延々と続き、かれこれ三時間近く持論を展開していた。 一方の掛布は、酒に酔っているためかジョーの言葉など耳に残らず、ほとんどジョーの独り漫談と化していた。
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