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「いいか、会社という組織はトップには優秀な人間が求められるが、下々は歩兵でいいのだ。事務員、作業員に東大卒は要らん、どうせ採用しても物足りなくなってすぐに辞める。組織を戦場で例えるならば、社員は死に駒、経営陣が優秀であれば戦に勝つ。多様性など嘘方便」 ジョーはクダを巻くと、座席近くの本棚に置いてあった週刊誌を手に取り、最後のページに記載されていた血液型占いの欄を見て、言った。 「人間はある指標をもとに幾つかのタイプに分けることができる。例えば、人間は血液型で四タイプに分かれる。自己中心的なB型と、真面目で勤勉なA型と、組織を重んじるO型と、二面性を持つAB型―」 酔っ払いの虚言など露知らず、週刊誌の表紙を飾るグラマラスなグラビアアイドルを見て、この後、曙町にでも繰り出そうか、などと掛布は淡い想いを巡らせた。 「四つの血液型と、これに加えて個人のポテンシャル、つまり潜在能力が加わる。優秀なB型とそうでないB型では、当然、優秀な方がいいな。じゃあ優秀なB型と優秀なA型だったら、どっちを採用する?」 唐突に質問を投げ掛けられ、一瞬、掛布は戸惑いを見せたが、然も面倒なものをみるように応えた。 「難しいですねぇ、私ならA型を選びますかね」 掛布が適当に応えると、ジョーは頷き様に言った。 「うむ、この場合は両者、採用の可能性がある。しかしポストに依るだろう。自己を重んじるB型はプレイヤーとしては優秀だが、単独行動を好むため部下を持たせると組織が途端に崩壊する懸念がある。つまり、業務の最前線に置いてどんどん市場を拡大するポストを用意した方がいい。一方、真面目で面倒見がいいA型は組織の長に向いている」 B型のジョーは真剣な顔をしながら自らの運勢をみた。 六月の運勢…『B型のあなた、人付き合いは波風を立てず、ぐっと堪えましょう。一方、異性とのコミュニケーションはうまくいくはずです。気になっている異性がいれば、思い切ってアタックしてみましょう』 ジョーの表情は、僅かに綻んだ。 「なにニヤけてるんですか、気持ちわるいな」 「オホンッ、では気を取り直して次の質問、優秀でないO型と、同じく優秀でないA型、会社にとってどちらを採用するのが有益だと思う?」 「むう、これも難しい質問ですな」 掛布は笑って誤魔化すと、やはり適当に受け流した。
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