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白鳥が言うと、アッブブは、然も眠そうに大欠伸をして、面倒そうな素振りを見せたが、対する白鳥の方が緊急を要すのだと訴えると、アッブブはカラシニコフと懐中電灯を手に取り、暗闇を電灯で照らしながら、離にある便所へと向かった。
ホテルを出て二十メートルほど向かった先にある用便個室は、煉瓦を積み塗炭屋根を被せただけの簡素な造りで、所々、ブロックが欠け、いかにも崩れそうで心許無かった。
思えば、昨昼、白鳥がアジスアベバに到着してから現在に至るまで、空港やオフィスの洋式便所でしか用便を足しておらず、これが人生初のエチオピア式便所であった。
ギイイッ、バタン。
塗炭扉の錆びた蝶番が不気味な音を掻き立てる。
白鳥が一歩、便所に足を踏み入れると、そこには驚愕の光景が広がっていた。
エチオピアの一般的なトイレは、コンクリート石の床に深さ七、八センチ程度の僅かな溝が掘ってあるだけの『便溝』であり、勢いよく噴出した糞便が、溝から撥ね散る危険性が高い。
また用便後も注意が必要で、エチオピア式便所は、一応は水洗であるが、天井に括りつけられたバケツホースから無作為に水が流れるため、水圧によって便溝内部の糞便が四方に飛び散る危険性もある。
実際、薄暗い電灯の中で、目を凝らしてよく見ると、前人のものと見られる糞便の痕跡が、びっしりと壁面一杯にこびり付いていた。
このように、種々の危険性を兼ね備えたエチオピア式便溝であるが、今も白鳥は贅沢を言っている余裕はない。白鳥は、ズボンを脱いで便溝に股がると、尻穴の焦点を溝に合わせた。
用便中も、安全のため、アッブブが扉の外で待っていることを思うと気が落ち着かない。これは中華料理三人分の大量の糞便であり、五分、十分ですべて出し切ることは到底不可能なのである。
「ギュルルル、ギュルルル!」
白鳥の下腹部には黒襟雉鳩の大群が大便放出の賛歌を奏でながら、今か今かと飛び立つ瞬間を待っている。
白鳥は、両足を気張りながら、充血した眼球を剥いた。
アジスアベバの夜は、東京と違って外灯が極端に少ないため、トイレの灯りの下には、得体の知れない昆虫が集まっていた。
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