11人が本棚に入れています
本棚に追加
白鳥は、そんな昆虫の群れを憂い目で追いながら、昨晩の自らの愚行を呪った。金子理論には反するが、慣れない土地に来たときは、極力、暴飲暴食をしない方が身のためなのである。あれはあくまで半分中国人と化した金子にとっては有効なのであって、白鳥にとっては自殺行為である。
―結局、その後、一時間もの間、慣れないエチオピア式便所で格闘を続けた白鳥。すべての便を排出し、ようやく扉を開けると、そこに待っていたのは心配して駆け付けた宿直のホテルマンらであった。
「白鳥様、体調、大丈夫ですか? なにやら便所から物凄い呻き声と黒襟雉鳩の鳴声がしたので、心配して駆け付けました」
白鳥は、蒼白い顔をしながらも、居丈高に言った。
「私は大丈夫です、しかし、大量の糞便が便溝に詰まってしまって、流れなくなってしまいました、申し訳ありませんが、掃除をお願いできますか?」
「鳩の糞ですか?」
「いえ、私の糞です」
ホテルマンらは、互いの顔を見合わせると、
「畏まりました、後は私共で清掃しますので、白鳥様は早く御休みになって下さい」
と、紳士的に言った。
「ありがとうございます、では、私は明日、早いので、部屋に戻ります」
颯爽とその場を立ち去る白鳥。
しかし、ホテルマンが一歩、便所に覗き込むと、阿鼻叫喚の喚声が鳴り響くのは言うまでもなかった。
最初のコメントを投稿しよう!