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現地スタッフにはすぐに受け入れられた白鳥だが、大方の予想通り、仕事は困難を極めた。 現地人は英語が話せないし、そもそも識字率が低いため、白鳥ひとりでは意思疎通すらできない。ビジネス上の会話は専ら?泄漏有限公司を経由して中国語で行われた。 幸いにも金子は中国語が堪能で、白鳥は金子の通訳を介して、献身的に働いた。 最初は金子の鞄持ちや資料作りから始まり、建設現場、?泄漏有限公司のオフィス、地場の資材業者を回りながら仕事の領域を広げていくと、徐々に仕事を任せられるようになった。 もともと勉強はできる白鳥のため、三ヶ月もすれば仕事にも慣れ、一人でエチオピア政府に立ち寄ったり、隣国シブチの港まで行って輸入された部品を確認したりと、その行動範囲は徐々に広がっていったのだ。 ?泄漏有限公司によって与えられた案件は、アジスアベバ郊外の複合施設開発、政府系機関も入居する高層ビジネスビルの建設など、主に建設関連が中心であった。 初めのジョーの説明にあった様に、アジスアベバには仕事が山ほどあるようだ。 本格的にプロジェクトが始まると、大量の重機や建築資材が中国から輸入されはじめ、当面の間、白鳥はアジスアベバとジブチを往復する生活となった。 週に二日はジブチに向かい、ジブチ市内でのホテル泊となったが、日本と経済的な繋がりのないエチオピアにいるよりも、ジブチにいる方が断然、居心地が良いと感ぜられた。 アジスアベバには日本料理のレストランはおろか、日本食を販売するメルカドすらないが、ジブチに行けば、数は少ないものの和食レストランがあり、日本食も手に入った。 その背景には、日本の自衛隊駐屯基地がジブチにあるということ、また中近東やスエズ運河、南アフリカとアジア諸国を結ぶ中継貿易港としての役割を担うこの国では、海外からの輸入品が容易に手に入るのだ。 現地スーパーには日本米だけでなく、寿司、味噌汁や納豆までも棚に並び、白鳥はそれらを狂気乱舞して買い占めたのだった。 「―白鳥、来週から?泄漏有限公司の建材エンジニアの李さんがジブチに来るから、対応してくれないか」 「ええ、承知しました」 エチオピアに渡って三ヶ月が経過したある日、中国から試験出荷された産業機械が到着するという一報を受け、白鳥はジブチに向かった。 もともと販売部として駐在を命じられた白鳥だが、その仕事の領域は製造分野にも及んでいた。
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