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準決勝までは両校とも毎試合の本塁打を含む猛攻が目立ったため、この日も打撃戦が期待されていたが、両エースの奮闘もあり、九回までに並べたスコアは二対一。那覇水産高校一点リードという接戦で、最後の最後まで緊張感のある展開が続いた。 「九回裏のツーアウト、ピッチャーは一回からマウンドを守り続ける那覇水産高校のエース島袋。球数は既に百四十球を超えています」 島袋は、時折、帽子を脱いで汗を拭う素振りを見せたが、炎天下の中では、沖縄の気候に慣れた島袋の方が分があるように見えた。 残りアウト一つで、試合が決まる。 正念場を迎えた両校は、ベンチから身を乗り出し、精一杯の声援を送った。 「ネクストバッターズサークルでは、四番の豪田が、二度、三度と素振りをして、今、バッターボックスに進んでいきます」 豪田は、滑り止めのロージンスプレーをバットに振り掛けると、ゆっくりとした足取りで打席に入った。百八十センチ、八十キロという体躯は、高校生としてはかなりの大柄で、相手投手に威圧感を与える。 『かっとばせー、豪田!』 紫水学園側のアルプススタンドからは、割れんばかりの声援が届いた。 豪田は、鋭い視線を相手投手に向けながら、大きく背筋を仰け反ると、バッドを構えた。 「あら、ガチガチやんな、こんなんで打てるもんかね」 城山は茣蓙の上に寝転んで鼻糞を穿りながら画面に釘付けになった。 「ランナーは、先程、ツーアウトからフォアボールで出塁した一年生の山下、彼も俊足ですから、注意すべきですね」 「好投手の島袋君ですが、上体を捻りながら、ややトルネード気味に投げるため、比較的盗塁しやすいピッチャーといえますね。バッターは好打の豪田君ですから、ここはランナーを得点圏に出したくない場面です」 島袋は、俊足の山下を警戒して、二度牽制球を送ると、豪田は、バッターボックスを外し、緊張を解すように首を回した。 「島袋投手は、百四十キロ後半の速球と、縦に鋭く落ちるスライダーを巧みに使いこなし、ここまで積み上げた三振は十二個。ヒットは三本しか与えておりません。強打の紫水学園を、九回まで僅か一点に抑えて参りました」 九回裏二死で四番、敬遠されてもおかしくない場面だが、一塁には俊足の山下。ランナーを得点圏に置きたくない那覇水産ベンチの思いもある。 互いの思惑の読み合いが、極限の域に達する。 果たして、相方の策略は如何に―。
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