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豪田は、次の球に狙いを定めると、ひとつ深呼吸をし、打席に戻った。 島袋は、再び一塁に牽制球を入れると、体勢を直し豪田と睨みあう。キャッチャーのサインに、二度、首を横に振る島袋。どうやらサインが合わないのだろうか、若干ではあるが島袋の表情が曇ってみえた。 カウントは、ワンストライク、ノーボール。投手側からしてみれば、未だ遊び玉はあるため、おそらく、ボール球になる変化球を放って誘いに来るだろう。豪田は冷静に分析すると、次の球も、一応は打つ素振りを見せながらも、待つべきと決めた。 島袋は、呼吸を整えると、トルネード投法のような身体を捻じる体制から、二投目を放った。 「ストライク!」 瞬間、豪田は自分の目を疑った。 予想に反し、島袋が投じた二球目は直球であった。 沖縄水産アルプスからは、先ほどと同様に、割れんばかりの歓声が巻き起こる。 そして豪田はこの時、島袋の口元が俄かに緩むのを見逃さなかった。 島袋が二投目に放ったストレートも、球速表示は百四十九キロ。そして先ほどと全く同じ、真ん中低めであった。 島袋が、キャッチャーのサインに首を振って、わざわざストレートを選択したことを考えると、速球に相当の自信があるのだろうと推察できた。投球後に見せた不敵な笑みも、ある意味、島袋の余裕を感じさせた。 まずい―。 不利な形勢に陥った、と豪田は焦った。 豪田は打席を外すと、助けを求めるようにベンチを振り返った。 目線の先には口髭を逆八の字に曲げ、腕を組む栃丸監督の姿がある。栃丸は、怒りに顔を紅潮させ、今にも罵声を浴びせかけん勢いで豪田を睨み付けている。 ここでもし三振などすれば、監督に面罵されるだけでなく、末代まで岐阜の恥だと呼ばれ続ける。 咄嗟に見た栃丸の顔が、余計に豪田の緊張を掻き立ててしまった。 カウントは、ツーストライク、ノーボール。 投手有利のカウントで、些か島袋のマウンド捌きには余裕が見られる。 あと一球で試合は決まってしまう。 豪田は瞑目すると、頭の中をフルに回転させ、策略を練った。
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