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「ブルー」モリオンは頭髪も瞳も、強い意志を感じさせる漆黒だ。子どもをたしなめるように弟を軽く睨む。「そんな態度をとるな。シルヴェル先生はこの村のためにわざわざお越しくださったのだぞ」
「先生?」
ブルーはどうでもよさそうに聞き返して、パンを大きな口で豪快に噛みちぎった。
「そうだ。街から派遣されたお医者様だ。本来春を迎えてからいらっしゃるはずだったのだが、先生たっての希望でな。これでこの村も安心だ、大変ありがたいことだ」
「光栄です」
シルヴェルは優雅な仕草で紅茶をひとくち飲む。料理にはほとんど手をつけていない。
ブルーが胡散臭そうに彼を眺める。
「医者か……ずいぶん若いな」
「たぶん、君ほどじゃないよ」
「なんだそれは、謙遜か? それとも……」
「そんなにつっかからないでくれよ、馬鹿にしているわけじゃない。若者同士仲良くやろうよ」
「……気味の悪いことを言うな」
「ブルー」モリオンがまた非難を込めた口調で呼ぶ。「機嫌が悪いからといってそんな風に振る舞うな、失礼だ」
「……」
兄に言われてブルーは黙る。そういえば何故これほど苛立っているのかわからない。
「そうだな、すまない。これからよろしく頼む、シルヴェル……先生」
「シルヴェルでいいよ、こちらこそよろしく」
ふたりはがっちりと握手を交わした。
モリオンはようやく笑顔になった。
「ブルー、食事が済んだら先生を診療所まで案内してやってくれ。長い間使われていなかったから、必要になる物が多いだろう。報告してくれれば私が何でも手配する、頼むぞ」
「まったく兄貴も人使いが荒い。俺は昨日、旅から戻ったばかりなんだぞ」
館から村の中心部である礼拝堂に繋がる下り坂を、ふたりは並んで歩く。
「聞けば宝石の買い付けに行っていたとか。ローラント家は純粋な領主の血筋ではないのですか」
シルヴェルが穏やかな声で尋ねる。
ブルーはというと少しばかり自嘲気味に笑った。
「宝石商は死んだ親父のはじめた道楽でな。何時やめたって障りがない。気楽な次男坊にはうってつけってわけだ。おかげで俺はいくつになっても放蕩息子扱いさ」
「そんなことはありません。道楽にしては、その剣はよく使い込まれていますね。僕のものこそお飾りだ」
シルヴェルはすっと白い外套の前を開け、腰に下げた細剣を示してみせた。鞘も、柄に巻かれた布も、純白に統一されている。
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