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「あんた、医者のくせに剣なんか……」
「君もよくご存じでしょう」青年は秘密をささやくように片目をつぶった。「旅には危険がつきもの。腕に覚えはあります、それなりにね」
「ほう」
ブルーの瞳には、初めてシルヴェルへの興味が宿った。「ならば、今度お手合わせを願おうか」
「かまいませんよ。人をいたわり、助けるのが医者の本分。しかしそればかりでは僕は退屈だ」
「変わってるな、あんた」
「お互いに、気が合いそうだね」
「それはどういう意味だ……」
――と、ブルーアンバーは足を止めた。礼拝堂の尖塔が見える。左にゆけば診療所、右にゆけば……。
「そうだ、先生よ」
「なんだい?」
「診療所という名の廃屋でひと仕事する前に、診てもらいたい人がいるんだが」
「誰か、病気なのかい」
「俺にはわからん。だがしょっちゅう熱を出して倒れるんだ。昨日の夜もそうだった。悪い病でなければ良いと、いつも心配している」
「了、解」シルヴェルは指先で前髪を軽く払い、頷いた。「お安いご用だよ。それに興味もあるしね」
「興味?」
「そ。大切な、ひとなんだろ?」
……そんなことは言っていない、とブルーは決まり悪そうに口ごもった。
*
桜水晶のビーズに針金を通し、工具で器用に先を丸め、ひとつぶひとつぶ丁寧に繋げてゆく。
ミミは歌うようにささやいた。
「桜水晶はね、恋のお守りなの。愛の女神の息吹が、透明な水晶にこんな素敵な色を宿すのよ。恋を見つけたいひと、想い人とこころを通わせたいひと……どんなお客さまがこのロザリオを手にとるかしら。楽しみね、タム。……タム?」
「……」
タムは首にかけた真珠のロザリオを小さな手できゅっと握り、青ざめた顔で店の扉を見ている。何かに怯えるように。
「ねえタム、いったいどうしたの。またお祈り?」
「……うん」
「これ以上、何を願うの。私はもう大丈夫なのよ。あなたの願いは……」
――カラン。扉に下げた陶製のベルが鳴った。
ミミは笑顔で顔をあげる。
「こんにち……あら、ブルーじゃない」
慣れた風に大きなブーツでどかどかと踏み込んできた幼なじみは、細いはさみ型の工具を手にしたミミを見て表情を陰らせる。
「おい、もう起きて大丈夫なのか」
「平気よ、いつものことだもの」
「いつもの事だから心配だというんだ。他人の願いとか想いとか、そんなことばかりにかまけていないで少しは自分の体を……おい聞いているのか」
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