第1章

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「あんた、医者のくせに剣なんか……」 「君もよくご存じでしょう」青年は秘密をささやくように片目をつぶった。「旅には危険がつきもの。腕に覚えはあります、それなりにね」 「ほう」  ブルーの瞳には、初めてシルヴェルへの興味が宿った。「ならば、今度お手合わせを願おうか」 「かまいませんよ。人をいたわり、助けるのが医者の本分。しかしそればかりでは僕は退屈だ」 「変わってるな、あんた」 「お互いに、気が合いそうだね」 「それはどういう意味だ……」  ――と、ブルーアンバーは足を止めた。礼拝堂の尖塔が見える。左にゆけば診療所、右にゆけば……。 「そうだ、先生よ」 「なんだい?」 「診療所という名の廃屋でひと仕事する前に、診てもらいたい人がいるんだが」 「誰か、病気なのかい」 「俺にはわからん。だがしょっちゅう熱を出して倒れるんだ。昨日の夜もそうだった。悪い病でなければ良いと、いつも心配している」 「了、解」シルヴェルは指先で前髪を軽く払い、頷いた。「お安いご用だよ。それに興味もあるしね」 「興味?」 「そ。大切な、ひとなんだろ?」  ……そんなことは言っていない、とブルーは決まり悪そうに口ごもった。 *  桜水晶のビーズに針金を通し、工具で器用に先を丸め、ひとつぶひとつぶ丁寧に繋げてゆく。  ミミは歌うようにささやいた。 「桜水晶はね、恋のお守りなの。愛の女神の息吹が、透明な水晶にこんな素敵な色を宿すのよ。恋を見つけたいひと、想い人とこころを通わせたいひと……どんなお客さまがこのロザリオを手にとるかしら。楽しみね、タム。……タム?」 「……」  タムは首にかけた真珠のロザリオを小さな手できゅっと握り、青ざめた顔で店の扉を見ている。何かに怯えるように。 「ねえタム、いったいどうしたの。またお祈り?」 「……うん」 「これ以上、何を願うの。私はもう大丈夫なのよ。あなたの願いは……」  ――カラン。扉に下げた陶製のベルが鳴った。  ミミは笑顔で顔をあげる。 「こんにち……あら、ブルーじゃない」  慣れた風に大きなブーツでどかどかと踏み込んできた幼なじみは、細いはさみ型の工具を手にしたミミを見て表情を陰らせる。 「おい、もう起きて大丈夫なのか」 「平気よ、いつものことだもの」 「いつもの事だから心配だというんだ。他人の願いとか想いとか、そんなことばかりにかまけていないで少しは自分の体を……おい聞いているのか」
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