第1章

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 やさしい願いが叶う場所――。 「あっ……」  すこしばかり息を切らして坂をのぼってきたミミは、家の戸口にたたずむ人物をみとめて、目を丸くした。そしてとびきりの笑顔になる。 「ブルー!」  青年は無造作に束ねたぼさぼさの黒髪に旅装束、腰には大ぶりの剣が吊されている。肩に提げていた大きな革袋をどさりと下ろして、ミミに向かって手を振った。ずいぶんと大柄だが、にやりと笑った口もとからは八重歯が少しのぞいていて、それがかえって子どものような無邪気さを感じさせる。 「ようミミ、待ちくたびれたぞ」 「ブルー、それはこっちの台詞だわ」ミミは早足で青年に歩み寄り、大きな手をとる。埃や土にまみれているというのにお構いなしだ。「手紙くらいくれたっていいじゃない。いつ帰ってくるのか知っていたら、お祝いにお料理をつくるって、何度も言っているのに」 「勘弁してくれ。俺だって何度も言っているだろう、俺は字を書くのと、約束と、お祝いは苦手なんだ」 「わかっているわ、冗談よ」ミミはくすくす笑うと、つま先立って青年の瞳を覗き込んだ。  普段は濃い琥珀色。だが日光が入る角度で見つめると、その瞳は艶やかな青色に変化する。それを確かめてから、ミミは安心したようにトン、と踵を下ろした。もう少しで互いの鼻先が触れるほどの距離だった。少女のやわらかい髪の匂いを感じたブルーがほんのりと頬を赤くしたのには気づいていない。 「おかえりなさい。三ヶ月ぶりね、こんどの旅はどうだった?」 「ああ、兄貴に言われたとおり、いつもより多く買い付けた。もう冬になる。今年の旅は最後になるからな。それと、とっておきの土産もあるぞ……」  と、そこで革袋に手を伸ばしかけ、ブルーアンバーの動きが止まる。 「なあ、ところで」少し後方、果物を詰め込んだ籠を手にして、ミミとブルーの顔を交互に見比べている少年を指さした。「そのガキは何だ、え?」 「この子はタムよ」  ミミはにっこりと微笑んでタムのうしろへ回り、痩せた肩に手を置いてブルーと向かい合わせにした。  タムは心配そうな顔で大男を見上げる。 「ぼくは、たむ……」 「俺はブルーアンバーだ。……いや、ミミ、そうじゃなくてな」ブルーは困惑して頭を掻く。「何故こいつはここにいるのかと、俺は訊いているんだが」 「なぜって」ミミは不思議そうにブルーを見上げ、小首をかしげる。「ここで一緒に住んでいるからよ」
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