第1章

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「……だから何故」 「タムは迷子なの。秋の迷子。可愛いでしょう?」 「……」  ブルーアンバーは顔をしかめて額に手をやり、ため息をついた。 「そうか、動物だけでは飽き足らず、遂に人間の子どもまで飼うのか、お前は」 「やだ、飼うだなんてタムに失礼よ。タム、ブルーはね、おうちの宝石商の仕事を手伝っているの。あなたのロザリオの真珠も、ブルーが外国から持ってきてくれたのよ。ブルーは、私の大切な幼なじみなの」 「がいこく……」  タムは首に下げたロザリオを感心したように眺めている。  その向かいでブルーアンバーは空を振り仰ぎ、ふたたびため息をついた。  ――なあミミ。俺はいつまでお前の幼なじみなんだろうな。  ミミの家は一階が半地下、二階が居間兼アトリエと寝室になっている。  玄関の扉へと続く短い階段の手すりにもたれ、大きな口で梨を囓りながら、ブルーアンバーは今年最後の旅について熱っぽく語った。  さまざまな毛色の猫が人間と同じ数ほど住んでいる街。一日の半分が海水に浸かり、人が大通りを船で行き来する都市。黒い瞳の少女が首にかけてくれた真紅の花輪の香り。大きくひらけた宝石の掘削場で見た美しい虹――。  そして……どの料理にももれなく凄まじい辛さの油がかかっていて辟易した、ある国の、屋台がひしめく地下街。何十ものスパイスを配合するという色とりどりのスープに、花の雄しべを混ぜ込んで炊くという小麦に似た穀物。パンのようでパンではない、どうにも発音の難しい料理。 「それから、鶏を長い時間煮込んだ熱い汁の中に、糸のようなものが山ほど入っていてな、二本の棒を使って食べる……これはなかなか難儀したぞ。だが予想外に美味でな、しかもべらぼうに安い。俺は銅貨一枚で何杯も……」 「もうブルーったら、けっきょくいつも食べ物の話になるんだから」  ミミはそう言って笑うが、ブルーはというと神妙な顔をして腕組みをする。 「笑い話ではない。これは重要かつ不可欠な事柄だ。食いものが人を作る、身体を動かす、頭を働かす。旅の中にあっては……」 「はいはい。生死にかかわる大問題であり、また俺にとっては最大の楽しみである、ね」 「……その通りだ」  しゃく。ブルーは得意げに頷きながら梨を頬ばる。  ミミはとうとう盛大に吹き出した。 「やっぱり子どもみたい」 「あ? 何か言ったか」 「なんにも」
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