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家の前は日だまりになっている。ぐるりと円形に広葉樹が取り囲み、まるで小さな舞台のようだ。
タムは頭の上に真っ赤な林檎をのせ、器用に両手を広げてくるくると回っている。金色の陽光と、ひらりひらりと舞い落ちてくる鮮やかな葉っぱを浴びて、気持ちよさそうに、天真爛漫な笑顔を浮かべて。その背に小さな羽根でもあったなら、きっと天使か妖精と見まごうことだろう。
「タム。ねえタム、そんなに回ったら、目も回ってしまうわ……」
そのときブルーアンバーが、とてもいい思いつきをしたというように、そうだ、と言った。芯だけになった梨をぽいと放り投げる。
「ミミ、俺たちも踊ろう」
「えっ」
ブルーはミミの正面にまわり込み、ゆっくりと右手を自分の胸に当てると、芝居がかったお辞儀をしてみせた。
ミミが慌てて首を横に振る。
「待ってブルー。私は踊りなんて……あっ」
ブルーは右手でミミの白い手をとり、左手で細い腰を抱いて、少々強引に引き寄せた。
「南の果ての街で習ったダンスだ。いたるところに小さな酒場があってな、どこにも必ず専属の音楽家がいる。ボタンのたくさんついた楽器ひとつで、とても情熱的な曲を奏でるんだ。皆、行きずりの者と憑かれたように踊る。一夜限りの恋だ」
「ブルー……」
幼なじみの手の力強さ、そしてその温度を感じて、ミミの胸は高鳴る。頬を染めて彼の顔を上目遣いにうかがう。
琥珀の瞳は陽の光を受けて、今は艶やかな青色を宿している。
「ステップを真似てみろ。いち、に、さん、し……足を踏まないように注意して、そう、上手だ。あとは俺に身体をあずけるだけだ。不思議だろう、それだけでいいんだ、よし、続けて」
「なんだか、すこし恥ずかしい。こんなに近くに、ブルーが……」
ミミはたどたどしく足を運ぶ。
ブルーアンバーがにやりと笑ってささやいた。
「そうだな、こんなに互いが密着する踊りは他にない。さすがの俺も、最初は戸惑った。だが今は気に入っている」
いち、に、さん、し。いち、に、さん、し。
いち、に、さん、し。いち、に、さん、し。
次第にふたりの足どりはテンポを上げ、流れるような動きに変わってゆく。
ブルーに導かれ、華奢だが伸びやかなミミの腕が弧を描く。
ブルーに抱かれ、支えられ、ミミは白い喉をのけぞらせる。
神の祝福をうけた恋人同士のように、ふたりは日が傾くまで踊り続けた。
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