第1章

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「ううん、ブルーのせいじゃないわ」 「久しぶりに会えて、その、嬉しくてな、つい……」 「私も嬉しいの。あなたに手を引かれると、なんだかとっても強くなれる気がする。ほんとうはもっともっと、ずっと一緒に、いたいのだけど」 「そうか……」  熱っぽくささやかれる鈴のような声に、ブルーはくすぐったいような、恥ずかしいような気持ちになり、うつむいて何ともいえぬ表情を浮かべた。 「ねえブルー」 「ああ」 「いつか、私も見たいな。広い、広い世界。あなたと同じ目線で、同じ世界を見たい……」 「ああ、背負ってでも連れていってやるさ。地の果てまでもな」  ミミがふたたび眠ってしまうと、ブルーは居間とひと続きになっているアトリエに向かった。  大きな金の鳥かごが吊してあり、その中で鮮やかな色のオウムがばさばさと羽ばたいた。 「ようカラコル、元気だったか」  数年前にブルーが外国から連れ帰ってきたものだ。カラコルは真ん丸の瞳でブルーを見て首をかしげ、クルルと鳴いた。  入り口の扉の前にある大きな作業台には、小さな四角に仕切られた木箱がいくつもいくつも整然と並んでいる。その中には様々な色と大きさをした宝石のビーズ、そしてひとつひとつが特徴的な形状をした十字架やロザリオ中央のパーツなどが丁寧にしまわれている。これもほとんどがブルーの仕入れた外国製だ。短く切りそろえられた針金と、それを曲げてつなげるための工具、それぞれ数種類がベルベットの布の上に乗っている。  変わらないな、と思った。安堵を覚えた。  そのとき。  ――ねえぶるー、いつになったらかえってくるの。 「何?」  カラコルがしわがれ声でしゃべったのだった。  ――ねえぶるー、いつになったらかえってくるの、ねえぶるー。 「……」  ブルーはあっけにとられてその言葉の繰り返しを聞いていたが、やがて、彼にしてはとても、とても優しい笑みをしてつぶやいた。 「ただいま、ミミ……」    *  夜半過ぎ、ミミの熱が下がりはじめるのを見届けてから、ブルーアンバーはローラント家に戻った。  三ヶ月ぶりにふらりと帰ってきた領主の弟の姿に、召使いたちは大慌てだった。ブルーは湯浴みの用意だけを頼むと、家長であるモリオンを叩き起こしそうな勢いで騒ぐ彼らを「さっさと寝ろ!」と一喝して追い払った。  少々おざなりに旅の汚れを落とすと、自室に向かう。
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