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館の三階、南端のバルコニー付きの部屋はちりひとつなく、徹底的に磨き上げられていた。ブルーが不在であっても毎日掃除の手が入っているのだ。呆れてため息が出た。ぴんと張られた洗い立てのシーツに身体を横たえるにいたっては、かえって居心地の悪さを覚えた。
だが良い意味で鈍感なのが今のブルーの取り柄である。結局すぐに深い眠りに落ちた。
空腹を感じて目を覚ますと、真昼だった。
適当なシャツに着替えて部屋を出、大きな吹き抜けになった螺旋階段を降りてゆく。
広間では兄のモリオンと見慣れぬ男が、まさに昼食の真っ最中であった。
「俺の分はあるか」とぶっきらぼうに声をかけると、モリオンがこちらに気づいてしかめっ面をした。
瞳の色こそ違うが、その精悍な顔つきや体躯はブルーとほとんど変わらない。まさに兄弟である。
「三ヶ月ぶりの再会の言葉がそれか。それに来客中だぞ、それからその腰の物騒な物は何だ」
腰に吊した大剣のことだ。旅の中で身についた癖で、手放せなくなっていた。
「まあそんなに気にするなよ、飾りみたいなもんだ、それで俺の分は……」
「ある」モリオンは呆れ果てて額に手をやった。「あるから座れ。そしてせめて行儀良く食え」
モリオンの正面に用意された席につき、さっそく黒パンに手を伸ばすと、斜め向かいに座った男――女のような細身の青年だった――が柔和な笑みを浮かべてブルーに会釈した。
「はじめまして、ええと君が次男坊の……」
「俺はブルーアンバー」
「ああ、そうでしたね」青年は長い白銀の髪の毛をさらりとかきあげ、とぼけたように続ける。
「じゃあ僕は、このなりにちなんでシルバー。……いや、それでは何のひねりもないね、……遠い外国の言葉でシルヴェル、でどうかな?」
「ふざけているのか?」
「ふざけてなんかないさ。国が変われば、この命につけられた名前だって少しは変化するのさ。たまたまどちらも色をあらわす。偶然って不思議だね、それにしても……」シルヴェルは試すようにブルーの眼を見つめた。「青い琥珀ってどういう意味? なにか秘密があるのかな」
「……」ブルーはあからさまに不機嫌な顔を浮かべて目を反らした。彼はミミ以外には決して自分の瞳の話をしようとはしない。
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