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ひとしきり、泣いた後、ポツリと親指が言
う。
「落ち着いたか。」
泣き止むまで待っててくれたんだ。
「美咲ちゃん、好きだったんだ。
良い感じだったんだ。
なのに、彼氏が出来たから会えないって。
」
「あのなぁ。」
親指が一息おいて言う。
「美咲は最初から気になる人がいるって断
ってただろ?それでも強引に誘ったのはお
前だろ?1回食事をしただけで良い感じだな
んて美咲にしたら迷惑だぜ。」
俺はハッとする。
気になる人ってだけだろ?
食事ではあんなに笑っていたのに…
俺に気があるんじゃなかったのか?
「美咲はお前に合わせて喋ってただけだよ
。美咲からは連絡なかっただろ?」
親指は恋愛相談までのってくれて、また、
泣いてしまった。
「女なんて…」
俺が言おうとした言葉をさえぎって、親指
は
「まぁ、そんな純粋な奴も俺は嫌いじゃね
ぇけどな。」
小さい目をもっと細めて呟いた。
「ねぇ、何で俺が思ってる事、分かるの?
」
俺は親指を落ち着いて見つめる。
「お前の脳と繋がってるんだよ。お前の事
や考えてる事は誰よりも俺が知ってる。」
よく見ると喋るたびに皺ができ、表情があ
る。
「何で俺の親指に来たの?」
「指を紙で切っただろ?あん時、感染した
んだよ。」
「何に?」
「俺にだよ。」
親指はオッさんのブサイクな顔でニカッと
笑った。
俺も涙をホッペにひっつけたまま笑った。
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