冬樹と夏樹

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「なつきー。なっちゃーん。何処にいるのー?」 キョロキョロと辺りを見回している。 カーテンをめくり、そこにも居ないことを確認すると、困った様子で溜息をついた。 「どこに隠れちゃったのかしら。今日は歯医者さんに行くからってちゃんと言っておいたのに…」 そういえば昔…こんな事があった。 実は、歯医者に連れて行かれるのがどうしても嫌で隠れていたのだ。 母親の姿とその記憶から、彼女が探しているのは今の自分ではなく、まだ幼い頃の自分なんだということを理解する。 これは、過去の情景…。 記憶を手繰(たぐ)りながら、黙って母親の様子を伺う。 彼女が、あちらこちらを探しながら何気なく廊下の方に目線を移したその時。 そこを一瞬何かが通り過ぎた。 それは小さな小学生位の子供だった。 子供は素早い動作で、物音を立てず走り過ぎて行ったのだが、母親もそれを見逃しはしなかったようだ。 彼女は目を細めて優しく微笑むと、何かを思いついたのか少々悪戯(イタズラ)っぽい表情を浮かべた。 そろそろと廊下へと向かうと、薄いレースの暖簾(のれん)越しにその子供の姿を探した。 まっすぐ続く廊下の先。 吹き抜けになった玄関ホールの上部の大きな窓からは、真夏の太陽の光が燦々(さんさん)と注いでいる。 その広々とした空間に子供が一人、ちょこんと背を向けて座っていた。 物音を立てぬように…だが、いそいそと靴を履いている小さな背中。
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