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これは完全に見つかったな。
母親も当然のことながらその子供の姿をすぐに見つけると、気付かれないように背後に忍び寄ると、その子供の着ているTシャツのフード部分をしっかりと掴み、軽く引っ張り上げた。
瞬間、子供の身体は強張り、動きを止めてしまう。
「こーらっ。夏樹、待ちなさい。逃がさないぞっ」
ちょっと嬉しそうに彼女は言った。
すると、その子供はフード越しに母親を振り返り見上げると、にっこりと無邪気に笑いかけた。
「ぼく、ふゆきだよ?おかあさん」
「…あら?」
母親は目をぱちくりさせている。
動揺して母親の手がTシャツから離れると、その少年冬樹は、素早く靴を履き終えて立ち上がった。
そして半ば考え込んでしまっている母親に向かって、廊下の向こう側を指さして言った。
「なっちゃんなら、あとからくるよ」
そして、母親が自分の指さした方向を振り返っているうちに冬樹は、
「いってきまーすっ」
外へ駆けて行ってしまった。
小学二年生の割には少々小さめな冬樹の背中が、外の光の中へと消えて行く。
とりあえず、
「いってらっしゃい…」
と、見送るしかなかった母親は、そのままひとり考え込んでしまう。
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