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言葉とは恐ろしいもので、あの醜態も言い様によってはずいぶんとコケティッシュに歪曲できる。
身体を丸めて噎せる彼女の背中を叩いてやりながら、ダメ押しのノロケを披露した。
演技とはいえ人生初だ。
多少のむず痒さは我慢すべし。
「まあ、一度は逃げられたんですが、結局僕が追いかけて捕まえたと、そんな感じですね」
迷子がどんなボロを出したかは知らないが、これで納得いただけただろうか。
江藤奈都は十分にリア充で、決してバーで見知らぬ男に泣きついたり、思い詰めて裸になったりするミジメな干物女ではないと。
ただ、いつまでもバカップルごっこで遊んでいる訳にもいかない。
この食事会のもう一つの目的は彼らの実態を探ること。
最低限知りたいのは、東条の自宅に彼女は自由に出入りしていたのか。
僕はそれを探るため、ノロケ話に伏線を仕込み始めた。
「だから飲むのは僕の部屋だけでと言ってあります」
「へえ……。江藤さん、大事にされてるんだね」
「僕のエゴですけどね。信用してますから」
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