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テーブルの上のマグを掴んで残っていたコーヒーを飲み干すと、冷めた苦味が喉を染めて落ちていった。
「今日はここまでですね。車で送ります」
「え、でも……」
僕がはっきりと終了を口にしてようやく彼女は身体を起こした。
「駅まで近いし、まだ電車あるし、一人で大丈夫です。皆川さんお酒飲んでるし」
「僕は飲んでいませんよ」
そう、僕は飲まなかった。
なぜか?
堀内嬢とでは美味い酒にならないからとか、仕事の目的を疎かにしたくないからとか、思い付く理由はいろいろあるが、本当は違う。
彼女をここに連れてくることを僕は無意識に望んでいたからだ。
電車で彼女の腕を掴んだのも。
前回、彼女に道筋を覚えろと言ったのも。
すべて、その時々に理由をつけながら、結局僕は彼女を手放せなかっただけだ。
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